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型絵染め -大木夏子-

三年前、偶然見かけた一枚の布。私の中で何かが閃き、一瞬で心が奪われました。伸びのあるデザインに、シンプルで心地よい配色。一枚の布から感じた印象は、その後初めてお会いした”大木夏子さん”そのものでした。

素直で謙虚。まじめで大らか。そんな自然体の大木さんとお話ししていると、不思議と穏やかな気持ちになります。そして彼女の作品もまた同じように、見る人を穏やかな気持ちにさせてくれるのです。そんな不思議な魅力を持つ大木さんの工房へお伺いしてきました。

大木さんの工房へ

工房にて

東京から1時間。関東平野ののどかな風景が広がる美里町、ご実家兼工房で大木さんは制作をされています。

立派な枝垂れ桜や梅が植えられた庭を抜け、玄関の戸を開くと、早速ざっくりとした木綿の広幅の作品が私たちを迎えてくれました。

型絵染めによる表現を主とする大木さん。工房にはハケや伸子(しんし)、蒸し器など制作の為の道具が並んでいます。「これは去年、国展に出品した作品の型紙です。大きいでしょ。」そう言って、私たちも初めて見る大きな型紙やデザインの下絵など沢山みせて下さいました。

*国展…国画会が主催する日本最大級の公募展。

染めを仕事に

工房にて

大木夏子さんは1973年生まれ。女子美術大学芸術学部工芸科卒業後、毎年国画会へ出品。新人賞、国画賞を受賞され、現在は国画会工芸部会員です。

「女子美を卒業してから、型染めを仕事にしたいと思ったのですが、何をどうしたら良いか分からなくて。しばらくはアルバイトを続けながら制作をしていました。初めてギャラリーの方から個展のお話を頂いた時は、なんだか信じられなくて。笑 狐につままれたような気持ちでした。」

素直で謙虚。まじめで大らか。大木さんとお話ししていると、不思議と穏やかな気持ちになります。広幅の綿、麻、そして絹の上に表現される色と線。
「私の染めた布が、誰かの暮らしに寄りそえたら、それ以上嬉しい事はありません。」そんな言葉の通り、大木さんの型染と言う表現方法は、年々その巾を広げています。

型絵染め

大木夏子 型絵染め下絵【貝寄せ】

「型絵染め(かたえぞめ)」という言葉は、1956年に芹沢銈介氏が人間国宝に認定された際、その他の型染めの技法と区別するために考案された名称です。技法的には沖縄の紅型とよく似ています。

大木さんをはじめ、作家と呼ばれる方達の作品は図案、型彫り、糊伏せ、彩色、地染めまで基本的に全て一人で行います。そのため分業の多い友禅や小紋染などとは違い、作家さんの個性や想い、感性が作品に強く表れます。

お母様のこと

工房にて

ご自宅で大木さんと一緒に私たちを迎えて下さったお母様。ギャラリーなどに出品するバックや小物はお母様と大木さんが二人で仕立てをされています。お母様はご自宅で絵画教室を開講されており、大木さんの感性は幼い頃からご家族の影響を大きく受けた事でしょう。

また国画会で大木さんが“あこがれの先輩”と仰る、岡本紘子さんと女子美付属時代の同級生とのお話に父も私も大変驚きました。不思議なご縁を感じ、以前開催させて頂いた、岡本紘子さん隆志さんの個展のお話にも花が咲きました。

芝崎さんの生地で

工房にて

今回お伺いしたのには、工房の見学ともう一つの目的がありました。

芝崎重一さんに織って頂いた、“きびそ”と”残糸”のざっくりとした白生地。これに作品を染めて頂けませんか?そう言って生地を広げると、大木さんとお母様、二人が生地を手に取り「わーっ」と歓声が上がりました。思わず父と私もにっこり。

どんな作品が出来上がるのか、今からとても楽しみです。

*きびそ…蚕が繭を作る際に最初に吐き出す糸。

大木夏子(おおきなつこ)略歴

工房にて

1973年 埼玉県生まれ
1997年 女子美術大学芸術学部工芸科染専攻卒業/「国画展」初入選
2000年 「国画展」新人賞 受賞(東京都美術館)
2002年 「日本民藝館展」入選(日本民藝館)
2003年 「国画展」国画賞 受賞(東京都美術館)
2004年 国画会工芸部準会員/「日本民藝館展」入選
2005年 「日本民藝館展」準入選
2008年 「日本民藝館展」奨励賞受賞
2013年 国画会工芸部会員